皆さんもご存知のとおり、ショベルナイトはついに海を越えて、日本でも発売されました! 私たちの感慨もひとしおです。ローカライズにあたっては、日本版が楽しくて洗練された内容に仕上がるよう、大変な時間を費やしました。ちなみに「ローカライズ」という言葉ですが… これはゲームをリリース先の言語に翻訳したうえで、現地の市場に合った形に仕上げていく工程のことです! 私たちはこのローカライズを最高の品質に仕上げるべく、この分野では超クール専門企業「有限会社ハチノヨン」と提携して作業を進めました。今回は、日本の皆さんに楽しんでいただけるよう大変苦心して行った変更の中から、特に小粋で面白いものについてお伝えします!

 

歴史

しかしその前に… ローカライズの歴史について、少しおさらいをしておきましょう! その昔――ローカライズの大地は、まったくの無法地帯でした。現在のような品質基準はもとより、ルールや作法など、ゲームのローカライズに必要な規範が何一つなかったのです。開発者はしばしば奇妙な文章やタイプミスだらけの翻訳をやらかし、ときには大変な努力をしてゲームの名前まで変更し、またときには、まったく別のシリーズを作り出してしまうことさえありました。

(左は、不自然な英語で書かれている「バブルボブル」のテキスト。右は、「ワンダーボーイ」とその移植版である「高橋名人の冒険島」です。元々アーケードゲームであった「ワンダーボーイ」は、それぞれ「高橋名人の冒険島」/「Adventure Island」としてファミコン/NESに移植され、その後、別個シリーズ作として確立されました。

なおローカライズの歴史については、私たちから学ぶよりも、専門家であるクライド・マンデリン氏(http://legendsoflocalization.com/)から学ぶのが一番です。彼は、いくつかの有名なゲームのローカライズ経緯や海外版で加えられた変更について、素晴らしい資料や本の形にまとめています。

日本版から北米版にローカライズされる際の主な変更点

ゲームをローカライズするにあたっては、まず翻訳作業そのものの複雑さが原因で、大小さまざまなテキスト変更が発生します。しかしここでは、ファミコン/NES時代のゲームにおいて、ビジュアル、サウンド、プレイといった部分に加えられた変更について、見ていきましょう。

グラフィックの変更

もちろん、よくある大きな変更点の一つは、タイトル画面でしょう。まったく別のものに差し替えられたこともあれば、日本語部分だけが削除されたこともあります。

スプライトの変更は、ファミコン/NES時代によく行われた手法です。日本ならではの食べ物など、欧米市場では分かりにくい表現がしばしば変更対象になりました。

かと思えば、北米のローカライズチームが日本版のキャラクターやスプライトを、「ウケない」と判断してしまったらしいケースもあります。こちらの「パワーブレイザー」は北米では「Power Blade」としてリリースされましたが、かわいい主人公がマッチョな姿に変更されてしまいました。

80年代まめ知識: とりあえず主人公をシュワルツェネッガーにしておけば売れました。

また、プレイをより明確で分かりやすいものにするために変更を加えられたケースもあります。

あれ? そんな所に敵がいたんだ…?

日本国外では「Super Mario Bros. 2」の名でリリースされた「夢工場ドキドキパニック」ですが、このローカライズにあたって、ニンテンドー・オブ・アメリカは手段を選ばなかったようです。これは当時のローカライズにおいて、どれほど大胆な変更が行われていたかを示す見本と言ってもいいでしょう。あろうことか彼らは… マリオとまったく関係のないゲームを、マリオのゲームにしてしまったのです!

この際、一部のスプライトがアニメーションするように変更されました! 以下はその一例ですが、ちょっとした変更がプレイを実に生き生きとしたものにしています。

なんだか引っこ抜きたくなる草ですね!

また、スプライトの簡略化や複雑化が行われることもあります。ときには日本版よりも改善されたケースもありました。こちらは前述の「Super Mario Bros. 2」で改良されたアニメーションです。

こうしたアニメーションの変更は、ファミコン、NES、ディスクシステムといった各ハードの性能的な制約から行われる場合もあります。以下は「リンクの冒険」(Zelda 2)のスプライトアニメーションですが、NES版では削除されてしまいました。これは、NESとディスクシステムでVRAMの動作が異なっていたためです。

こ、これ… 水だったんだ!

フォントの変更

フォントは、しばしば大きな変更が加えられる部分です。この当時、日本のゲーム開発を難しくしていた要因の一つは、「漢字」を含む文字セットを実装しようにも、NESやファミコンの貧弱なメモリには収まらないことでした。なにしろ、漢字は何千種類もあるのです(たとえば日本の新聞には2100種以上の漢字が使われています)! 当時のゲームの中には、この問題を回避するためにカナ表示(100文字程度で済みます)を使用したり、さらに文字数の少ない英数字だけで表示する場合もありました! 日本では英語がある程度浸透していますので、英数字でもまったく遊べないわけではありません(そもそもファミコンのゲームはテキスト量が少ないのです)。以下の画像は、ファミコンにおけるカナ表示の例です。

こちらは、「ゼルダの伝説」の画面の1つですが、左がファミコン版、そして右がNES版です。ファミコン版においても英字で表記されています。

ファミコン版とNES版の違いがお分かりいただけるでしょうか? NESでは8×8サイズの太字フォントを使用するため、北米のプレイヤーにとってなじみのある表示に最適化されています。また、大文字しか使用されていないことにもお気づきかと思いますが、これは実装する文字数が半分で済むためです。ちなみに英語版ショベルナイトでも、この手法を採用していますよ!

テキストの読みやすさが非常に重要となるゲームでは、より複雑なテキストを表示するために、それだけ多くのリソースを割り当てていました。こちらは当時の常識を破って小文字を使用した、NES版の「ファイナルファンタジー」です。

ああ、なんて読みやすいんでしょう!

お気づきかもしれませんが、Kingの「g」がちょっと変ですね。ファミコンやNESのゲームには8×8サイズのフォントしか使えないため、本来はベースライン(欧文書体の基準線)の下に突き出してしまう「g」を、文字枠に収まるようベースライン上に乗せて表示しています。これを見ても、ファミコンやNESで漢字を表示することが、どれほど無謀なことだったかお分かりかと思います。さまざまな漢字の複雑さを考えれば、8×8ピクセルで表現できるとは到底思えませんね。しかし、ファミコンゲームの中には少数ながら、開発者がド根性で漢字を表示させた例も存在します。こちらはその一例、「ファザナドゥ」です。

ご覧のように、通常の8×8サイズよりも大きなフォントを使用しています。そもそも複雑な文字である漢字を8×8サイズのブロックで再現することは不可能に近いため、「ファザナドゥ」では1辺を2倍にした16×16のブロックを使用しています(文字自体は14×14で収まります)。後のスーパーファミコンやSNESにおいては、もう少し自由度が上がっており、漢字フォントはしばしば12×12サイズで描画されました。

サウンド

変更されたのは、ビジュアルだけではありません。ときにはローカライズチームが、ゲーム内オブジェクトに設定された効果音を変更することがありました。

さらに一歩進んで、音楽の楽譜自体を変更してしまった例もあります。これはファミコン、NES、ディスクシステムといった本体ハードウェアの違いが原因である場合もありますが、ときにはカートリッジに導入された特殊技術が原因となったケースもありました。せっかくですので、ファミコンの「悪魔城伝説」とNESの「Castlevania 3」のサウンドを聞き比べてみてください。

プレイ面では

ファミコンからNESに移植される際の変更は、ときにプレイそのものにまで及びました。これは難易度の調整、バグの解決、ハードウェア性能に基づいた最適化といった基本的なものだけでなく、ゲームをより面白くするために変更が行われたケースもあります。こちらは「ゼルダの伝説」ですが、NES版ではコウモリが追加されています!

また「ゼルダの伝説」に関する残念なエピソードとして、ファミコン版では音に弱かった「ポルスボイス」が、NESのコントローラにはマイクが内蔵されていないため、仕方なく弓に弱いことに変更された、ということが知られていますね。

ショベルナイトのローカライズにおける違い

それでは、いよいよショベルナイトのローカライズについてお話ししましょう。私たちは、昔のようなリージョンごとの違いを、愉快な形で再現したいと考えていました。それどころか「逆ローカライズ」しようと企んでいたのです。つまり、もしショベルナイトが日本で開発されたゲームだったら――という、ごっこ遊びですね。私たちはこの遊びを実行するにあたって、いくつかルールを決めました。 1) プレイ自体は変更しないこと、2) オリジナル版をプレイしていない人が損をしたと感じるような大変更を行わないこと、3) 昔よくあった「悪いローカライズ」的な行為は行わないこと… その3点です。意図的なタイプミスや妙ちくりんな英語などは論外ですし、ゲームの品質を損なう変更は一切ダメです。また、あまり大胆な変更はしたくありませんでした。私たちは現代の水準にふさわしいローカライズを行いたかったのです。でも、ちょっとした遊びは入れたかったので… あちこちにこっそり変更を忍ばせることで、全体的に違いを出すことにしました!

グラフィックの変更

タイトル画面は分かりやすい例ですね。ご覧の通り、左が日本語版、右が海外版の画面です。日本語版は、当時の日本のゲームの雰囲気を出したかったので、英語ロゴの下に日本語表記(ショベルナイト)を加えました。

その後、静止スプライトにいくつか変更を加えました。以下はその一例で、体力をアップグレードする際に「調理の鉄人」が作ってくれる料理が、日本版では時々オニギリになります。

また、錬金コインは、左の日本語版では真ん中に穴があいて、寛永通宝のような形になっていたり…

そして、勇者の殿堂にある彫像のデザインも変更になっています。こちらも左側が日本語版、そして右側が海外版の画像です。

ちょっとした色の変更も行いました。一部のウィゼムやアイアンナイトは、ご覧のように右側の海外版から、左の日本語版のようにカラーパレットが変更されています。

そして静止スプライトにおける最後の変更は、リーズ、バズ、フロストナイト、エンチャントレスの4人の顔アイコンを作り直したことです。全体的にアニメっぽいスタイルに変更しています。こちらも、左側が日本語版、右側が海外版の画像です。細部を見比べてみてください。

私たちが次に手をつけたのは、一部の静止スプライトをアニメーションするように変更することでした。ファミコンの力を見よ、という感じですね! まずは手始めに、平原の道の草を動かすことにしました。

ダイブドレイク(緑および青)は、最初かなり多くのフレームを使ってアニメーションさせていたのですが、あまりNESっぽく見えないという理由からフレーム数を減らした経緯があります。しかし左側の日本版では、当初意図していたように、滑らかに動きます!

また、村の噴水はデザインを変更し、流れる水がアニメーションするようにしました!左側が日本語版ですが、違いは明らかですね。

最後に行ったグラフィックの変更は、たき火のそばで寝ているショベルナイトです。左側の日本版では、鼻チョウチンが出ていますよ!

フォントの変更!

フォントに関しては、とても難しい決断を強いられました。ファミコン時代(と当時のハードの限界)を象徴するような、カナ表示を採用したいと考えていました。しかし同時に、日本のプレイヤーの多くが、漢字表示をを望むであろうことは分かっていました。漢字はスーパーファミコン時代から本格的に使用されるようになりましたので、その頃の表示スタイルを再現できれば、多くの方に懐かしく感じてもらえるはずです。とはいえ漢字を採用すると、8×8サイズのフォントに合わせて作った欧米版のテキストボックス(テキストの表示領域)を、メニュー系であれと会話系であれ、すべて作り直さなければなりません。どう考えてもカナ表示を採用するほうが楽なわけですが、私たちは何度も検討を重ねた末に、結局…… 両方やることにしました!

日本版ショベルナイトは、漢字表示とカナ表示の両方に対応しており、プレイヤーはいつでも切り替えることができます。

左が言語選択画面、中央ははカナ表示、そして右が漢字表示の画面です。単に表記を変更しただけでなく、単語や文字間隔など読みやすいように配慮していることがお分かりいただけるでしょうか。

ご覧のように、漢字表示には12×12ピクセルのフォントを採用し、スーパーファミコン時代の表示スタイルに近づけています。

また、画面上部のシステム表示(HUD)は英語のままにしています。この辺りは、日本のファミコンゲームでもアルファベット表記になっていた部分ですので、英語版の表示をそのまま使用しました。

サウンドの変更

この分野にはほとんど変更を加えていません。当初からファミコンの音源を使用しておりますし、加えてVRC6チップの音も使用しています。そこで、効果音のいくつかに手を加えることにしました。

  • グリフォンの断末魔とスリープドラゴンの断末魔を入れ替えました
  • ファイアボール(およびショベルナイトのファイアロッド)の音を、魔法の音からバーナーの音に変更しました
  • フェアリー系の敵が噛みつき攻撃を行う際の音を、別の音に変更しました

さらにチートコードも!

ここで満足してはいけません! 私たちはもう少しお楽しみを追加することにしました。皆様は、英語版における「X&BUTT」というチートコードをご存知でしょうか? これは特定の単語を「butt」(=おケツ)に入れ替えるものですが、残念ながら日本でbuttと言っても英語ほど面白くありませんので、日本版では違うアプローチをとっています。このチートコードでは、一部の言葉を置き換えるだけでなく、通常モードに採用できなかった大胆なグラフィック変更が反映されます。

右の海外版にあるニンジンが、左の日本語版ではダイコンになったり…

右の海外版に見えるゴールドコインが、左の日本語版では小判になったりします!

こちらのコードは後日公表される予定ですので、どうぞお楽しみに!

お読みいただき ありがとうございました

日本語ローカライズにおける苦心と努力の数々を、ご理解いただけましたでしょうか。ゲームのローカライズはもともと大変な労力を必要とする工程ですし、私たちがそれぞれのバージョンに注ぎ込んだ作品愛を、皆様に知っていただけましたら幸いです。日本版と、海外版の違いについては、メニューから表示言語を変えることで実際に見て頂けます。すでに本編をクリアされた方も、もう一度プレイして、ぜひご自身で変更箇所を確かめてみて下さい!